特別企画 後藤夕貴さんによる突撃インタビュー

特別企画 後藤夕貴さんによる突撃インタビュー

「南彰・朝日新聞記者に聞く!~新聞記者ってなに?」

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※安全衛生を確保するため、撮影関係者間でに社会的距離が確保できるよう配慮して撮影しました。

ミュージカル「BRAVE HEART~真実の扉を開け!~」上演にむけて、今回ミュージカル・ギルドq.のミュージカルに初出演の後藤夕貴さんが、この作品の登場事物のモデルにもなっている朝日新聞政治部記者の南彰(みなみ・あきら)さんに突撃インタビューを行いました。インタビューは2月18日、政治の中枢国会議事堂近くの某所で行われましたが、国会会期中という慌ただしい中、南さんも快く取材に応じていただけました。なお、感染症対策を考慮して十分な距離を保っての取材となりました。


※インタビューする後藤夕貴さん

◆後藤夕貴◆ みなさん、こんにちは!後藤夕貴です!本日はミュージカル「BRAVE HEART~真実の扉を開け~」特別企画として、作品の登場人物のモデルにもなっています朝日新聞の記者、南彰さんにインタビューさせていただきたいと思います。南さんよろしくお願いいたします。

◆南彰◆   はい、よろしくお願いします。

◆後藤夕貴◆ すみません、私とても緊張しております。よろしくお願いします。

◆南彰◆  いつもと立場逆転ですからね。

◆後藤夕貴◆  そうですね。私は今回の舞台で新聞記者の役をやらせて頂くんですが、南さんは政治部記者だそうですね。記者さんって普段どういうお仕事をされているんですか?

◆南彰◆  そうですね。世の中の人が記者を見る場面、例えば記者会見で、今だったら総理大臣を菅さんがやってますけど、菅さんに対して質問をしている記者の様子なんかが、カメラに映ったりすることがあると思うんです。私も、官邸で菅さんの記者会見をやっていたことがあって、記者会見で色々な質問をするのも、記者の大事な役割です。でも記者会見の中で、取材対象が全てを話してくれるわけではないし、そこで全てが明かされるわけではありません。なので、取材先の政治家や会社の幹部、警察官だとか、色々な物事を動かす人たちの自宅に夜とか朝に行って、実際どういうことが起きているのか取材をしたりもしています。そういう意味では、表の取材と、水面下で黒子のように情報をとってくる裏の取材の2つをこなしながら、そこで集めた情報を文章にして新聞に載せたり、今はデジタルでも配信をしていくっていう作業をしています。

◆後藤夕貴◆ ありがとうございます。ここからは、ミュージカルの作品のこととかも交えながらお伺いしていきたいなと思います。先程のお話にも出てきた記者会見のシーンが、今回のミュージカルでも大きなターニングポイントになっているんです。私も役で官房長官の取材にあたるんですけど、記者会見ってやっぱり緊張感があるなと台本を見ていてもそうですし、普段自分が報道を見ていてもすごく感じるんです。南さんはたくさん経験を積んでらっしゃるとは思うんですけど、実際に菅さんだったり、政治家さんを目の前にして圧倒されてしまったり、緊張されたりすることはあるんですか?

◆南彰◆  それはあるんですよ。

◆後藤夕貴◆  あ、そうなんですね。

◆南彰◆  僕が政治部の記者になったのは2008年、今からもう12年、13年前になるんですけど、その時は福田康夫さんが総理大臣でした。その頃は総理大臣は毎日に記者の前に姿を現していて、記者が好きなことを自由に聞けました。政治部に入ってきた1年目の記者が、日本で一番権力を持っている総理大臣に質問をするという慣習があって、そこで政治記者としてトレーニングされてたんですね。


※朝日新聞政治部記者・南彰さん

◆後藤夕貴◆  へえ、そうなんですね。

◆南彰◆  でもやっぱり、一番日本を動かす権力を持ってる人に質問をすること、しかもカメラがまわっていて、周りにも総理を支える秘書官と呼ばれるスタッフが何人もいる中で嫌なことも当然聞かなくちゃいけないし、間違ったことは聞けないんですよね。でたらめなことは聞けないし、相手になるほどなと思わせながら聞き出さなければならないので、最初は結構足が震えました。

◆後藤夕貴◆  そうなんですね、やっぱり。

◆南彰◆  そういう場数を踏みながら、記者会見に出ていく中で、僕の場合は、大阪で橋下徹さんが市長だった時に記者会見で何度もやりとりをしたことがあって、そこで鍛えられました。

◆後藤夕貴◆  そうなんですね。ちなみに、記者会見とかでも、知りたい相手の情報とかを得るコツとかってあるんですか?

◆南彰◆  まあ、やっぱり相手をよく研究することです。例えば疑惑を追求する結果になる記者会見とかもあるんですけど、その時相手は基本的には隠そうとするじゃないですか。

◆後藤夕貴◆  うんうん、そうですね。

◆南彰◆  できるだけ明らかにしないように、何度も防衛線を敷いてこれ以上しゃべらないようにします。そういう時は「自分はこれだけ調べてますよ」と、時には調べてきた取材のファイルを会見中にみせて、これだけ知っててその上で聞いてますよっていう感じを出したりします。やっぱり相手に気後れしちゃいけないっていうのはありますよね。

◆後藤夕貴◆  そうなんですね。

◆南彰◆  ちょっとでもこっちに隙があれば、そこで例えば逆質問をしてきて「それは事実にあたりません」と否定してきます。そこでちゃんと対等に勝負するためには、結構準備も必要なんです。

◆後藤夕貴◆  劇中で、私の役は海外特派員に憧れて通信社の記者になったという設定なんですけれども、南さんはどうして新聞記者になろうと思ったんですか?

◆南彰◆  なかなか難しい質問なんですよね。

◆後藤夕貴◆  (笑)きっかけとかなにかあるんですか?

◆南彰◆  新聞社の記者とか、まあテレビもそうだしジャーナリストを目指す人っていうのは、昔から記者やジャーナリストに憧れてなる人も結構いるんですけど、私の場合は、大学の3年生の終わりぐらいまで記者っていう選択肢を実は考えていなかったんです。でも、友人に誘われて当時の朝日新聞の説明会に行った時に、現場に行っていろんな事を掘り返して世の中に伝えていくっていう、その時の説明が結構面白くて。あと、記者って新聞社に勤める会社員だけど、でも1年目から記者個人がいろんなところで人と会って、そこで感じたことを書くことができる。会社員だけどどこか自由業みたいなとこもあるし、生活スタイルも含めてね。9時から17時まで働くっていう生活とは全く違って、日中喫茶店へ行ったり、映画観たりとかも出来なくはない。そういう自由な職場で、しかも表現活動、文章を書くってことで自分の感じたことを発信していけるのは、面白い仕事だなと思ったんです。

◆後藤夕貴◆  私も作品を読んでいて、記者さんたちがいろんな方とコミュニケーションをとりながら、思いを文字に起こしていくっていうのがすごく素敵だなと思っていて、そういうところも記者さんの魅力のひとつなのかなと思いました。

◆南彰◆  そうですね。自分は記者になる前段がすごい蓄積があってなったわけじゃないけど、なってから記者の仕事って大事だなと思うことがいろんな場面であります。その中で1番象徴的だったのは、まだ入社して4年目くらいで千葉の支局にいた時ですが、公立小学校の特殊学級という障害者のお子さんたちが通っている学校で、担任の先生が強制わいせつを生徒に繰り返すっていう事件が起きたんです。でも、性的暴行事件ってなかなか被害の立証が難しく、とりわけその被害者が知的障害をもっているということで、いつどういう形で被害にあったかなど日時、場所を特定することが難しいので、刑事裁判では無罪になっちゃったんです。それで、学校側や市役所などは「いや無罪だから事件は無かったんだ」と。その周辺の人たちからも「あれは虚偽告訴だ」という形で、被害者たちに対するバッシングが起きたんです。それでも裁判をたくさんやりながら、最終的に被害が認められました。その時、そもそも今の日本の刑事裁判ではなかなか性的被害が認められないシステムがあって、そうした中での無罪判決であって、被害がなかったわけじゃない。システム上なかなか認められにくいんだっていうことを、被害者の家族とかと寄り添いながら丁寧に書いていった。それで7年かけてようやく民事で認められました。無罪が出た瞬間は学校側も否定するし、裁判所も否定した恰好になるから、公にこの人たちが被害者であるかもしれないということを認めてくれる人がいない中で、記者がそれをしっかり書いていくことによって、初めてその人たちが被害を受けたことを訴えて、みんなにわかってもらうっていう役割があるんだなと思いました。そういう意味では、やっぱり記者が活動する意義っていうのはあるなと感じています。

◆後藤夕貴◆  ありがとうございます。劇中において私も記者として、いろんな困難にぶつかって悩んでいくシーンとかもたくさんそれぞれあるんですけれども、実際に南さんが記者になってみて大変だったこととか苦労したこともお聞きしたいな思います。また、逆に記者になってみて良かったなと思うことも教えていただけないでしょうか。

◆南彰◆  そうですね。大変だった話と良かった話がセットになる話があります。ある市長の汚職事件を追いかけていた時でした。ゴミを焼却する清掃工場の管理業務を市長の仲良しのところに独占的に受注させて、市長はその業者からお金を貰っていたっていう話なんですけど、独占的にこの業者に市が契約させるっていう決済文書などを情報公開請求をかけても市はなかなか出してこなかったんですよ、ありませんって。そんなはずないだろうって色々取材する中で、どうやら市役所の中にはないけれど清掃工場の方に管理しているっていう話を聞きつけて、出してくれと交渉しました。そのあと、きっと隠蔽をはかるんじゃないかと思って清掃工場の方に回り込んで張っていたら、夕方もう6時過ぎたあたりで、普通市役所の職員が業務を終えて帰っていくような時間に案の定担当職員が出てきました。「なにか御用があるんですか」とついて行ったら、「なにもありません」とその日は帰っていきましたが、翌朝「参りました」って文章を出してきたんです。その日は、自分たちがいなくなったらまた戻ってきて文書を廃棄するかもしれないと思って、もう1人の同僚記者と24時間車の中で張り込みして、朝まで待った上で「出します」って言うまで待ったんです。その文書がきっかけになって、市長が特定の業者に便宜をはかって事業を与えたっていうことを裏付けて、さらにその後お金の授受も判明して、事件になっていきました。最終的にその市長は逮捕されてやめていくんですけど、苦労して相手が隠そうとするいろんな事実を掘り起こすと、それで動いていくものがあるし、役職やシステムが変わることもあるんだなと実感しました。

◆後藤夕貴◆  ありがとうございます。ここから少しプライベートなお話をお聞きしたいなと思います。先程も一日中張り込みをしていたという話があったんですが、とてもお忙しい中でプライベートの時間がとれるのはなかなか少ないのかなとも思うんですけれども、お休みの日とか何されてるんですか?

◆南彰◆  家で犬を2匹飼っていて、ちょっと前までは猫も2匹いたんですけど、ペットと戯れるっていうのが。

◆後藤夕貴◆  癒しですよね。

◆南彰◆  癒しです。普段ね、国会周辺とか少し殺伐というか変わった空間にいるので、そこで癒されながら心を入れ替えて清らかにしているっていう感じですね。

◆後藤夕貴◆  そうなんですね。映画を観たりとかもあるんですか?

◆南彰◆  そうですね。映画とかミュージカルとか、そういうのを観に行く時もあります。

◆後藤夕貴◆  そういうところで普段のリフレッシュといいますか、癒しを。

◆南彰◆  そうですね。僕らって政治の取材をしているので、政治家とか役人の人とか、あるいは学者の人とかと会うことが多いんですけど、もちろんそこで話を聞けば文章にすることがたくさんありますが、忙しくなってくるとだんだん自分の中の文章が湧いてくるっていうのが少なくなってくるんですね。そういう時に文学作品とか本を読んだり、ミュージカルなど劇を観ることによって、自分の文章表現の幅が広がったりすることがあります。芸術作品に触れて、そこでこういう風に物事を捉えればいいのかということを感じたりします。だから、できるだけそういう時間をとるようにしています。

◆後藤夕貴◆  じゃあこのミュージカル「BRAVE HEART」も、お時間があれば。

◆南彰◆  もちろん行きますよ。

◆後藤夕貴◆  ありがとうございます!この作品のもうひとつの大切なテーマになっている、女性記者の働く環境についての問題なんですけれども、南さんの目線ではどう思われますでしょうか。

◆南彰◆  そうですね。今から3年前、2018年4月に当時の財務省の官僚のトップであった事務次官の福田さんという方が、女性記者に対してセクハラ発言を繰り返していたということが明るみになって辞職するということがありました。勇気のある女性記者が福田さんがおかしなことをしているということを、週刊誌の方に情報提供して告発したことによって明るみに出たんです。残念ながらメディア業界、特に取材先との関係性において、セクハラが横行していたという事実がありました。相談ができずになかなか外に言えないで、ひっそりとやめていく優秀な女性記者もいたというのが、これまで続いてきた残念な現状です。今、新聞社でも女性記者って20%くらいになってきているんですが。

◆後藤夕貴◆  それって、やっぱり最近増えてきたんですかね。

◆南彰◆  そうですね。増えてきても20%という感じなんですね。今、新聞社の新入社員面接だと女性記者と男性記者の比率は半々なんです。多い新聞社だと7割から8割女性というところもあるような感じで、そこはどんどん増えているんですけど、若手で入ってきてくれる人達が、新聞社とかテレビ局を含めてメディアの中でしっかり働き続けられるようにならないと。24時間、朝から晩までみたいな長時間労働が当たり前で、それに耐えられた人間だけが記者をやれるっていうところから、しかもセクハラとかマスコミの悪しき慣習から離れて、女性記者が安心してキャリア形成できる環境を作っていくこと、そして特に中堅でキャリアアップできるモデルになる人がいるということが、これから本当の意味で女性記者が増えて、社会の色々な価値観を体現できるメディアに変わっていく上で大事だなと思いますよね。

◆後藤夕貴◆  ありがとうございます。では最後に、昨年日本アカデミー賞を受賞した「新聞記者」など、最近記者やメディアを中心に描いた作品が増えてきたなという印象もあるんですけれども、今回私が参加させて頂くミュージカル「BRAVE HEART~真実の扉を開け~」に南さんからぜひエールを頂けないでしょうか。よろしくお願いします!

◆南彰◆  はい。この「BRAVE HEART」という作品はメディアの今置かれている状況を問うものになっています。メディアを支えるビジネスの環境が大きく変化し、特にデジタル化が進む中で、今までとは全然仕事も違うしビジネスの基盤が変わってきています。メディアの中にいる人たちに色々迷いはあるんです。例えば、我々メディアが情報を発信するよりも、TwitterとかInstagramなどのいろんなSNSの情報の方がどんどん広がって影響力を持ってきている。その中で、社会にとって本当に役立つ情報で、みんなに共有してほしいどういった情報を発信していけばよいのか、どういう形ならみんなに届くのかっていうのを悩みながらやっています。そうした過渡期における新しい形のメディアの姿、あとは市民に届けようとしている記者の姿をですね、この作品から感じてもらえたらいいなと思います。特にメディアは政府ではなく市民が支えてくれるものなので、メディアが弱ったら政府や権力を持っている一部の人たちが都合のいい情報を流して、社会を自分たちに都合よく歪めてしまうということになります。そうなると時に戦争になって多くの方が残念ながら亡くなってしまうとか、そういう大きな犠牲を払う場面も出てきてしまうと思います。戦前の過ちを繰り返さないためには、きちんと権力を監視できるメディアがいて、そのためにはメディアを市民にしっかり支持されて理解されるような形にしないといけない。時に記者会見で、君たちはちゃんと質問をしているのかとか、未だにセクハラとかが起きているようにメディアの中でも問題が絶えない中で世の中が変わるわけがないだとか、いろんなメディアに対する不満や不信をどう現場の記者と一緒に新しい形を作って乗り越えていけるか、ということの一端を感じられる作品になるんじゃないかなと思います。ぜひ、この作品を通じていろんな事をみんなで共有して、新しい社会を一緒に作っていくきっかけになればいいなと思っています。

◆後藤夕貴◆  本日はたくさんお話を聞かせて頂きありがとうございました。朝日新聞記者 南彰さんでした。

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